日本での怒涛のスペインワインプロモーションを終え、カタルーニャの我が家に戻り、ようやくほっと落ち着いた 2020年、年明け。
出張中もずっと気になって、ページをめくっては、いや、家に帰ってじっくり読もうと我慢していた 石田博ソムリエ の新書「ソムリエが出会った16の極上ペアリング」には、石田さんの30年にもわたるソムリエとしての歩みが、世界の魅力的な16のワイン産地で体験された極上のワインペアリングと共に綴られていました。
ワイン好きな方、旅好きな方、美味しいモノに目がない方にとってたまらない本というのと同時に、石田さんがソムリエになられて初めて外国を旅した時のエピソード、
第一章「フィレンツェのTボーンステーキ×キャンティ」
第二章「ブルゴーニュのマッシュルーム、ベーコン、小玉ねぎ×ジュヴレ・シャンベルタン」
に描かれた 、若き日の初体験ならではのハプニングや珍道中は 、その後、世界ソムリエコンクールで活躍され、日本を代表するソムリエとなられた 石田さんにも、そんな微笑ましい時代があったのだと思うと、希望とやる気が湧いてきました。
そういう意味で、今より上を目指すソムリエや、ワイン道を志す方にとっても、おすすめの本だと思います。
本書にも登場する、急斜面が特徴のワイン産地スペイン・カタルーニャ州プリオラート。
雄々しい岩山「モンサン」は、聖なる山という意味。プリオラートの象徴でもある。
第十二章「ラ・マンチャの乳飲み仔羊×テンプラニーリョ」にその時のエピソードが少し記されていますが、石田ソムリエとの出会いは 、2015 年、 DOQプリオラート(特選原産地呼称統制委員会プリオラート)主催で行われた「エスパイ・プリオラート」でした。世界中から各国で活躍するソムリエや、ワインジャーナリストをお招きして、プリオラートワインを現地で思う存分体感していただく為、地元のワイナリーが一丸となっておもてなしをする、国際的なワインイベントです。
「エスパイ・プリオラート」テイスティング会場にて。世界ソムリエコンクールで
競われた経験のある、石田博ソムリエと、世界最優秀ソムリエ パオロ・パッソ氏。
二年に一度、世界各国からワイン業界のトップスター達がプリオラートに集結します 。私は、”スペインワインと食協会”としてプリオラート統制委員会から依頼を受け、日本のご招待者を推薦させていただく機会に恵まれ、「機関誌Sommelier」編集長・佐藤由起さんのご紹介のもと、スペインで初めて、石田さんにお会いすることができたのでした。
プリオラート・ワインイベント後 、ラ・マンチャの新進気鋭の造り手「VERUM(ヴェルム)」にご案内させていただきました。
本書に登場した極上ペアリングの一つ
ラ・マンチャの乳飲み仔羊×テンプラニーリョ
旅の道中では、石田さんのソムリエという職業に対するお話や、ワイナリー訪問時の姿勢や質問の仕方、テイスティング・コメント などから、どんな人生講義よりも深く感銘を受け、学ばしていただくことができました。
本書にも登場するスペイン・リオハ、ログローニョにある「ラウレル通り」。
ワインとタパスでハシゴ酒。呑兵衛にはたまりません。
そんな貴重な旅の記憶が強く残っていたので、本に描かれた30年前の石田さんの姿は、より新鮮で、旅を通して大きな 成長を重ねてこられたのだということが伝わってきました。
ページをめくるにつれ、無性に旅をしたくてたまらなくなり、気がつくと、飛行機に飛び乗っていました 。
新年「魂の喜ぶ事に、日々チャレンジしよう」と誓った上に、この本が背中を押してくれ、フットワークはいつもに増して軽いです。行き先は、ドイツ・バーデン地方と、フランス・アルザス地方。
(バーデン地方、アルザス地方も本書では取り上げられていません)
ドイツと国境を接するフランス・アルザス地方。
ヴォージュ山脈のすそ野に広がるアルザス・ワイン街道
車窓を流れるいつもと違う風景 を眺めながらこの本を読んでいると、無性にお腹が空いて、ワインが飲みたくてたまらなくなりました。そして、まだ訪れたことのないさまざまなワイン産地を、旅している気分にもなりました。
最近は、インターネットでどんな情報も入手でき、世界中のニュースが、動画や写真で容易に手に入るようになりました。それらを見ていると、まるで 旅に出たような気分にもなれます。その上日本は、世界中のワインが手に入り、あらゆる国の料理も楽しむことができます。
けれども、この本を読んで、やはり郷土料理とワインの極上ペアリングは現地にこそあるのだ、という答えにたどり着きました。
スペイン・プリオラートに住んで8年が経ちました。赤ワインの産地であるプリオラートは、アペリティフはVermut(ベルムット)、もしくは最初から赤ワインで食事を始めるのが伝統的です。
バルセロナに住んでいた頃は、カバから始める事が多かったので、同じカタルーニャ地方でも、食文化をひとくくりにすることは不可能だということを、生活の中で知りました。
近年、スペイン全土でブームを巻き起こしているベルムット。
プリオラートの家庭では、週末のお昼、アペリティフにベルムットと、
オリーブの実、ムール貝、 ベルベレチョス(ザル貝)の缶詰などといただく
石田さんは、あとがきで こう書かれています。
「このように、ワイン産地を訪問するということは、移動、風景、造り手、料理といった、
ブドウ畑を取り巻くあらゆるものを見て、識り、体験するということなのです。私はワインゆかりの地を旅することで、そのことを徐々に理解できるようになりました」
そうだ、また旅にでよう!
読み終える頃には、次の旅の目標も心の中で決まっていました。
石田さんのソムリエとしての三十年の歩みを、旅するように味わい、学ぶことができる
「ソムリエが出会った16の極上ペアリング」。
この本に出会い、色々な角度から、たくさんの気づきがありました。繰り返し読み、そしてまた新しい旅に出ようと思います。
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